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『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』

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読書ノートNo.5

書 名  『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』

著者名  北尾 トロ

出版社名 幻冬舎

 

しばらく本棚で眠っていたものを、祖父の葬儀に向かう際思い立ち、とっさに鞄に押し込んだ一冊。

高知から鹿児島への機内で広げてはじめて、この本を持って来てしまったことに気付き、苦笑い。

最初は読む気にならずぼーっと外を眺めていたけれど、思考がめぐってどうしていいか分からない頭の中を、

大いに助けてくれたように思う。読み始めてからあっという間に鹿児島に着いたように感じた。

 

内容は、筆者が裏モノ雑誌で“やってみたかったけど、

“できなかったこと” というテーマで連載していた記事を、厳選して再編集したというもの。

第一章は “知らない人に話しかける” というチャレンジについて。

電車内や休日のお台場、街の公園など、今や大人すら赤の他人と交流を持つことがない世の中で、

散々な目に合いつつもあの手この手で挑む赤裸々なレポートが実にリアルで見ていられない。

 

第二章は “他人に注意する” チャレンジ。

仕事仲間や取引先初対面の人、競馬場の親父、電車内の若者…。

この記事を読んでいると、いかに黙認されている悪習慣が横行しているかよく分かる。

危険な目に遭うこともあったようだけれど、どんな時も周囲を観察する著者の目線から、

ライターという職業の、冷静に臨場感を探り当てていく姿勢がうかがえる。

しかし本文は、ゴリゴリの熱い人のそれではない。

あくまで力の抜けた文で綴ってくれているので、いい調子で読むことができた。

 

もう一つ、この本の良い所は後半にあると思う。

章ごとに段々と難易度があがるチャレンジは、4章では良い話になる。

好きだった女性に年月を経て気持ちを伝える、恩師に謝る、母と照れ臭い話をする、など。

現実に起こす良い話の結末はなんともドライだ。思ったほど盛り上がらない代わりに、

そこに隠れている本物の後悔の念が実に切ない。すべての人が後悔していることを、改めて知ることができる。

この章では、その時の自分の気持ちもリンクしてすこし切なかった。

手にした本のタイミングというか、引き寄せのようなものには、いつも少し胸が震えてしまう。

 

最後には番外編として、“消えたフリーライター持馬ツヨシの行方を追う” という小説のような話がある。

これもまた筆者のレポートではあるけれど、鳥肌ものの本当の話。

筆者から金を借りたまま行方が分からなくなった人物を探るという内容だ。

良い人が書く巧妙な面白い話より、異常な思考回路を持った人間が起こすノンフィクションの方が、

はるかに救いがなく奇妙だと思った。やりたくてもできなかったことなど、彼らには無いかもしれない。

想像の範囲を出ないけれど、筆者の狙い目が本当はこの話だったとして、

連載は当初から布石だったとしたらと考えると、またすごい。

 

事実はよほど、小説より奇なりだ。

 

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